現代の日本において、安楽死や尊厳死は合法化されていない、仮に本人が安楽死を強く求めたとしても患者の要望に基づいて殺害したり、自ら命を絶つための手助けをすることは自殺関与・同意殺人罪に該当するといいます。これに加えて、意識などがなく本人が死を望んでいないのにも関わらず、安楽死させればそれは殺人罪で処罰されるなど、日本の法律の中では現状安楽死および尊厳死は様々な罪に問われる可能性が高いなど法律そのものの改正がなければなしえない話です。
尊厳死は,安楽死と同じことであるという誤解が多い(28.7%)。次の点で異なることを明確に伝えておく必要がある。安楽死は,末期患者の苦痛を除去し,死期を早めることを目的としている。それに対して,尊厳死は,死期の引き延ばしをやめることを目的としている。人間としての尊厳が保たれているうちに自然な死ができるようにとの考えから生まれた概念である。
https://www2.ninjal.ac.jp/byoin/teian/ruikeibetu/teiango/teiango-ruikei-b/songensi.html
日本の法律ではどのような処罰になるのか?
日本の法律では、安楽死や尊厳死は認められていません。認められていないので、入院中の患者さんが担当医に対して安楽死を求めても断れてしまうことはいうまでもありません。仮に、担当医が患者さんの気持ちを察して安楽死させたとします、この場合は自ら命を絶つことへの手助けをしているわけで殺人罪に問われることはないのです。しかし、自ら命を絶つことへの援助といった形になるため自殺関与や同意殺人罪など刑法202条に該当するのが特徴です。ここで注意すべき点は、患者さんが担当医に対して口頭での安楽死を求めた場合には、本人がそれを求めているのか否かの証拠がないため、患者さん本人が希望していたとは違った観点で見られてしまうなどから殺人罪が適用されることになります。仮に、日本の法律が改正されて安楽死が合法となった場合でも、患者さん本人が安楽死を求めていることを記した証明書といったものがなければ犯罪に相当するのではないでしょうか。
刑法上での安楽死とは?
学説の中では、安楽死や尊厳死は解釈により一定の場合に正当化すると余地はないのか、このような問題が検討されていたといいます。正当化するという意味は、適法な行為であるなどになるのですが、刑法上での安楽死の考え方は、死期が切迫していて激しい痛みなどの苦痛にあえいでいる患者さんに対し殺害して苦痛から解放することを意味するといいます。これに対して、尊厳死は、治療が困難もしくは治療が不可能な病となり意識そのものも回復する見込みがなくなってしまった患者さんに対して延命治療を中止することを意味するとあります。しかしながら、これらを正当化して認めても良いものであるのか、その要件をどのように考えるべきかなど、様々な論議が存在します。なお、終末期の医療が発達している現代において、患者さんの病状について正確なジャッジを下せるのは原則専門医のみであり、医師による安楽死が問題になるケースが増えているともいいます。
医師とは何か?安楽死などとの関係
患者さんの状態を把握できるのは医師のみ、しかし日本の法律の中では安楽死や尊厳死は認められていないため、仮に激しい苦痛に苦しむ患者さんを診察する立場にあっても患者さんを死なせてしまうといったことは殺人罪や自殺関与などの罪に問われてしまいます。ただ、本来医師といった職業は、可能な限り患者さんをより長く生かすべき立場などからも、わずかな可能性でも延命できるのであればそれを追従することを考えなければなりません。延命の可能性があると判断されたとき、それを追求することを職業倫理で掲げる職種などからも、患者さん本人が命を絶ちたいなどの要望があったとしても、法律が改正されて尊厳死や安楽死が認められても職業倫理とは相反する考え方の中で患者さんを殺す義務を果たすことは人間としてどうなのか、このような考え方もあるわけです。例え、犯罪が適用されなくても医師の職業がどのような性質があるのかで安楽死や尊厳死は不可能なものなどの意味にも繋がります。
欧米の一部の国では認められている
患者さんの痛みが耐え難いものであると同時に回復の見込みがない、これに加えて患者さん本人の明確な意思に基づくことを条件として欧米の一部の国などでは、安楽死や尊厳死は認められているといいます。さらに、オランダやベルギーなどの国々においては、肉体的な苦痛だけでなく精神的な苦痛による安楽死、未成年者に対しても認められているなどこれらは日本人の感覚の中ではかなり極端な話といえましょう。積極的安楽死や自死介助は日本では認められていない、仮に実行すれば殺人罪や自殺幇助罪などの罪に問われることになります。ただ、終末期を迎え苦痛に伴う治療を行っている患者さんへの延命治療を中止した結果、死期が早まるという治療中止の名を持つ消極的安楽死は日本の中でも認められているといいます。これは患者さんの意思で治療をやめる、結果として死に至ることについては法律の中で禁止されていないのが現状です。なお、消極的安楽死は、自分の意思により決めるなどの条件があります。
まとめ
病気の末期を迎え、痛みなどに苦しむ毎日はとても辛いものですが、日本の中では安楽死および尊厳死は法律で認められていないので苦しみながら死を迎えた人も少なくありません。仮に、法律で認められたとしても医師という職業は延命を可能な限り求めるもので延命の可能性が僅かに残っているのであれば安楽死や尊厳死など倫理的に考えてもできない、もしくは法律で義務付けを行うことは職業倫理と相反する形となり、患者を殺す義務を課すことになるのではないでしょうか。
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