月別アーカイブ 10月 18, 2021

投稿者:終末医療学術集会

DNARとは?人として尊厳を保ちながら死にゆく権利について考える

かつては命の終わりを迎えるとき、家族や医師の意見に従った治療を受けることが通常でした。まだ生きているのに、死ぬときはどのようにしたいかなど話し合うことがほとんどなかったからです。
近年は、終活という言葉が一般的になり自分の命の終え方を自分で決めてエンディングノートに記し、家族に伝えることで本人の意思に応じた死の迎え方ができるようになりました。
そんな時代の中で生まれた「DNAR」という言葉があります。それは本人か家族の意思決定を受けて蘇生法を行わないということですが、どのような定義やルールがあるのか、DNARについて解説します。

DNARとはどのようなことか

DNARとは、患者が心停止状態になっても蘇生を行わないということで、患者本人や家族の意思や利益を尊重して判断されるものです。しかし患者からの要求にすぐに応じるものではありません。「医療・ケアチームで十分に話し合ったうえで判断をする」ことが、厚生労働省のガイドラインに示されています。
ガイドラインには、家族が患者の代わりにその意思を主張した場合も患者本人の意思と同様に尊重すべきものと定義しています。患者の容態が急変したり急に悪くなって生死の淵をさまようことになり、患者本人と家族が十分に話し合う時間を持てないまま家族がDNARの意思を示した場合は、医療関係者と家族がしっかりと話し合って、本人にとって最良の方法をすることが大切です。
日本集中治療医学会では、「終末期医療とDNARは同じ意味ではない」と医師向けに勧告しています。DNARは心停止の時に蘇生を行うことはしませんが、治療をしないということではないのです。

患者さんやご家族の「心肺蘇生を希望しない」という意向に、医師が合意してカルテに明示したものを「心肺蘇生を試みない指示」、略して「DNAR指示」(Do Not Attempt Resuscitation)といいます。

https://www.min-iren.gr.jp/?p=30463

終末期医療とはどのようなことか

終末期医療とは、自分の最期をどのようにしたいかを決めておき本人が望む最後の迎え方を尊重した医療の方法です。調査によると、半数強の人々が「自宅で死を迎えたい」と答えていますが、厚生労働省の2017年度の人口動向調査では、実際には約75%の人が病院で亡くなっていて自宅で亡くなった人はわずか13%という結果が出ています。
人生の最期となるような病気や災難に遭ったとき、ほとんどの場合は痛みや苦しみを和らげるために治療を求めて本人や家族の意志で病院に行きます。そしてそのまま病院で最期を迎えることが多いのですが、住み慣れた自宅で最期を迎えたいのであれば事前に家族に伝えておくことが大切です。死を迎えるときは自分で移動することは困難ですが、家族に伝えることによって家族が代わりに自宅に連れて帰ってくれる可能性が高まります。
また延命治療を望むのか、痛みや苦しみを和らげる緩和ケアはするのか、臓器提供はどうするのかどうするのかなどを、本人と家族、そして医師が一緒になって話し合っておけば患者本人の意思を尊重した終末医療ができるようになります。

DNARとDNRとの違いについて

DNARとよく似た言葉にDNRという言葉もあります。どちらも「心停止になったときに胸骨圧迫などの蘇生をしない」という意味ですが、もともとDNRという言葉が使われていました。DNRは「Do Not Resuscitattion」の略語で、「蘇生をするな」ということです。しかし蘇生をすれば生き返るかもしれない、という意味も含んでいるのです。それが1990年代に入って、生き返る見込みは少ないので「蘇生を試みるな」という意味の「Do not attempt resuscitation」に置き換えられたという経緯があります。
どちらも同じような意味なのでどちらの言葉を使っても良いのですが、決定的に違うところは、新しいほうの「DNAR」は心停止の時だけだけに有効で、心停止になるまでの治療についてはきちんと議論をして治療を進めていく必要があるということが大前提として日本集中治療学会のガイドラインで強調されている所です。

DNARは治療をしないということではない

DNARは治療をしないということではない

DNRAは救急や集中治療室室における終末期医療のガイドラインとして2014年に発表されたものです。また2015年に厚生労働省が「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」を発表したことで、患者の尊厳を重んじない延命治療はずいぶん少なくなりました。
しかし、まだDNARの意味を誤解している医療現場もあることは否定できず、あくまで心停止の時のみ蘇生をしないということであって、まだ心臓が動いている状態、生きている状態で痛み止めや苦痛を和らげる治療をしないということではありません。そのため集中治療室では栄養や輸液、酸素を提供したり鎮痛座や不整脈薬など具体的な治療の種類を提示して、これらの治療を控えたり中止をすべきではないと、ガイドラインの改定ごとに繰り返し記載されています。
終末期医療には、治療をしないという患者本人の選択肢がありますが、DNARはそうではないということです。

まとめ

終末期医療もDNARもどちらも本人や家族の意思が尊重される医療ですが、終末期医療は生きていて病気と闘っている間のことも含んでいる一方、DNARは心停止の時の蘇生をしないということに特化されたものです。
かつては本人の意思はあまり尊重されず家族や医師など周囲の人によって終末期の医療も蘇生も行われてきましたが、人生の最期の迎え方についても生きているうちに意思を決定しておけば尊重される時代となりました。その権利があるので、希望があればしっかりと周囲に伝えてくことが大切です。

投稿者:終末医療学術集会

終末医療の費用問題|お金が無ければ苦しむしかないのか

日本では健康保険の加入者の割合が高く、その実態から皆保険制度という言葉が使われております。医療を受けるとお金を支払わなければなりませんが、一定の割合の負担で済むのです。
さらに高額な治療も保険で認められた範疇ならば、高額医療費制度が使用出来るために大きすぎる負担はないと言われております。自費負担の先進治療がしたい場合にはこの限りではなく、医療費については高額になってしまうこともあるのです。終末医療にもこの原則が当て嵌まります。

終末医療で入所する時の考え方

終末医療では患者の意思が反映されることが第一になりますが、在宅での看護には限界があります。家族の負担が大きくて、もしもの時の心配も尽きません。だからこそ終末医療を受けることが出来る病院に入院することが現実的にはなりますが、受け入れる医療機関がない場合や逼迫しているなどのバランス的な問題も少なくはないのです。ある程度の自由と意思に基いて医療機関を選択したいのならば、自費で入院や入所が出来る場所を探す必要があるでしょう。
費用的にはスタッフによる行き届いたケアが保険の範疇外まで行われるのならば、その分だけ費用は大きくなってゆくことが特徴になります。健康保険のシステムでは病気に関する手厚い保護はあっても、一部の看護に対しては保険が使えません。例えば食事などは実費であることも多く、レクリエーションや趣味の費用なども自己負担になります。長期の入所が必要ならば豊かな気持ちで過ごすための費用を計算して、入所費用や医療費とは別枠で計算しておくことが大切です。

治療の考え方と選び方

病気の治療方法にはいくつかのパターンがあり、医師との相談の上で決めていくことが必要になります。完全に治療が出来るならば最優先にするのは当然になりますが、治療効果が少ない場合や逆に治療をすることで命の危険に晒される場合だって少なくありません。
そうしたケースには対処療法や延命的な処置が行われて、残りの人生を快適に暮らすための医療が行われることになります。なるべく病気の進行を遅らせることや、痛みなどを取り除く緩和ケアなどの対処療法がその中心になり、体のケアだけではなく心のケアとして患者同士のグループケアなどを行うこともあるのです。
現在では終末医療は形を変えて病院のベッドで寝たきりで過ごすのではなく、余命を静かに自分らしく過ごすことが推奨されております。薬で痛みを和らげながら日常生活を送り、末期症状になってからは例えば腹水などを取り除く処置をして体の圧迫感を減らしたり、モルヒネで痛みを和らげるなどの医療行為を行います。

ロコモティブシンドロームと終末医療

少子高齢化は2000年代に入り加速度的に進み、現在は3人に1人が高齢者世代や準高齢者に差し掛かっております。日本人の平均寿命は大きく伸びましたが、老人になれば誰しもが体にトラブルの1つや2つを抱えている状態になり、病院とは縁の切れない暮らしをしているのです。
平均寿命だけではなく近年では健康寿命に着目が集まり、老後でも自活して生活を送れることを目指す動きが広まってきております。日本では医療費の増大が社会問題化しており、予算の3割程度の費用が医療費関連に消費されているという指摘とデータがあるのです。健康ならば病院とも疎遠になるし、介護などの問題も少なくなります。
ロコモティブシンドロームという概念は、運動習慣を日常化して食事のバランスを整え、飲酒や喫煙をほどほどにして健康寿命を延ばす取り組みです。健康な状態が長く続くことで、終末医療の苦しみは軽減されるという推察もあるために、現在は運動教室などが草の根運動で広がってきております。

終末医療と医療保険について

日本人の死因の一番多いのはガンという病気です。自己免疫の暴走とエラーによって、正常な細胞を侵食してしまい臓器不全などを起こしてしまうことで病死してしまいます。ガンは外科手術で取り除くことが根治治療になりますが、放射線の照射や分子標的薬や遺伝子治療など治療のアプローチは様々あります。
しかし現実的には最先端医療では保険が適用されないために、費用が捻出できない場合には保険適用範囲での治療法しか選べません。そして最先端医療を行う医療機関は全国でも数える限りであり、お金があったとしても治療を受けられるとは限らないのです。
健康保険とは別に医療保険などに加入しておけば、プランによっては最先端治療の費用が保険会社により全額負担になる場合もあります。保険は若い頃から加入することがお勧めであり、高齢になり持病を抱えていると一部の保険にしか入れなくなってしまいます。終末医療や最先端の治療について考えるのならば、なるべく若い内から該当する保険に加入することが重要になります。

まとめ

通常の入院ならば皆保険制度である健康保険に加入していれば、現状の日本では大きな心配がありません。しかし長期の入院や終末医療と考えると、費用は多いほど良いということも現実になります。
普段から給与の中で一定額を貯蓄しておいたり、医療保険に加入しておくことで万が一の事態にも対応が出来ます。転ばぬ先の杖として一定額の貯蓄があることが、人生の役に立つ日があるのです。そして健康寿命を意識して生活すれば、病気にかかりにくい体を維持することも可能になります。